浮遊する魂

浮遊する魂

母方の祖母が亡くなった。

訃報が届いたとき、扇風機が壊れた。
祖母が僕を「見に来た」ときに、持っていったのかもしれない。
貧乏学生の僕だから、安物の扇風機で勘弁してくれたのだろう。

日本では虫の知らせとでもいうのだろうか。

タイ族の村では訃報があると、家で作業している手を止める。そして、その作業で扱っていた「もの」の一部を死者の家に分ける。
浮遊し分散した死者の魂が生きていた時と馴染み深い仕事や「もの」に絡め捕らわれてしまわないように。浮遊する魂は様々な事物や人の心にくっつき、異界から死者の魂を引き寄せる力によって持ち去られる。
その引力は計り知れないほど、強い。

その引力に抵抗し、悲しみに心が無防備になった状態をどうにか防御しなければいけない。
わたしたちは葬儀を開く。
非日常的な時間と空間と行動を通して、死者の魂を速やかにあの世へ送り出す。


翌朝、僕は壊れた扇風機を意味もなくバラバラに分解した。
そして祖母が眠る青森に向かった。


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