中国雲南、タイ、ラオス、ビルマの人、生活、そして音楽。 ひょうたん笛(葫芦絲)演奏者が綴る「おと」、「ことば」  
再会と、別れ ②

僕は不眠症だった。暗闇でじっとして、ちょっとでも鳥の鳴き声が聴こえてくると、身を起こして顔を洗いに行く。ワン母はもうすでに机で物書きをしている。

春節が過ぎると、これからしばらく2ヶ月ほど、各地では上座仏教儀礼があちこちで行なわれる。
最近は寺院の建て替えが流行していて、その記念儀礼が盛況だ。
文革前に建てられた寺院はもちろん、文革後に経済力があった村は木造の寺院を建てた。
近年はすべてコンクリートを使って高床式の寺院を建てるのが流行のようだ。文革で破壊された寺院の再建をしたり、他の村のように立派な寺院を建てたいから、理由はいくつかある。
これに村の家々が数年ローンでお金を出し合って寺院を建設する。

それは最大の功徳になる。

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ある村で、早朝。
書きたてのリックヤートを朗誦し、人名に間違いがないか確認。(歯ブラシをにぎってます)
もうひとつ、戒名を得る小規模な儀礼がある。
日本は亡くなった人が極楽浄土で出家して仏となるという思想に倣って戒名をつけるが、タイ族は生きているうちに立派な功徳を積み、それによって戒名をえる。
下水道や道路、橋を工事したり、寺院建設の費用の布施をしたり、大きな功徳を積むついでに釈迦への帰依を記念して仏像を購入し、寺院に納める。

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そうした儀礼ではリックヤートという仏教書が執筆される。
この書物は、自分たちの功徳を悠久な仏教の歴史の末端に位置づけていくものだ。その書物は詩的な美しい修辞文彩で書かれていて、読むときも声に出して節をつけて朗誦する。

その書物の内容をちょっと紹介しよう。
まずは、ブッダの輪廻転生の物語から、釈迦が悟りを開き、仏教を説き、入滅するまで、そこから仏教の説話や伝播の歴史、伝播した地名が描かれる。続けて、自分たちが暮らす地域の歴史、村の歴史、家族の歴史が記される。そして、最も重要なのが喜捨をした人々の行為、もしくは金額とその人の名前を詩文にして書き記すことだ。
儀礼において大勢の前でこの書物は朗誦される。
もしも、自分の名前が朗誦されなかったりすると、その人は血相を変えて抗議しに来る。


こうした仏教書を創作できる人はもう数人しかいない。
そのなかでも歴史上おそらくワン母はリックヤートを創作執筆した唯一無二の女性だ。
今年も多くの村から依頼が来て、毎日書き続けても終わらない。何件かことわったという。


様々な儀礼に呼ばれて、僕はワン母たちと10日以上旅をした。
あちこちの仏教儀礼でワン母はリックヤートを執筆してさらに2,3時間かけて朗誦もする。夜になれば、ワン母の民間歌手たちがその儀礼に参加した人々をねぎらって歌を歌い、場を盛り上げる。毎日、皆声を出す。音を出す。

美しい歌声、美しい、感嘆するような修辞文彩。言葉の宝石。

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話を戻そう。

まだ明るくなる前に僕とワン母は身支度を済ませ、ちょっと痩せたワン母と市場に買い物に行く。
まずは腹ごしらえだ。毎日あちこちで「ここがおいしい」とお勧めの米麺カオソァイを食べる。

「今日は何が食べたいのかな?」
ワン母は僕に気遣っていろいろ食材を物色する。
僕が野菜が好きなのをしっているから、いろんな種類の山菜や野草を買って料理する。


僕らが料理の準備をし始める頃、ラン姉が散歩から帰ってくる。

今年、ラン姉は気分がよくなったようだ。
ずいぶん太って80キロにもなってしまったが、毎日朝は外に出て散歩をして帰ってくる。
相変わらず狂ったようにしゃべる。シャマンにしてあげないのが惜しい。占も最近は方法にこり始めている。
ワン母はなんとかラン姉の精神不安定な性格を治したいと今もあきらめない。きっと今年は雨安居の三ヶ月間をどこかの寺院で寺に篭って暮らすという。きっと規則正しい修行の生活を送ることで、体調も情緒もよくなるだろうと考えている。

コン父は離れの畑で一仕事して昼頃帰ってくる。

コン父は酒をあまり飲まなくなった。そのおかげで今年は平和な新年を迎えた。
とてもよいことだ。酒をのまなければとてもとても良い人なのだ。立派な知識人なのだ。
滞在中、ビルマから、年頃の(親戚の)ひ孫で、とても可愛い女の子が遊びに来た。共産党の改革によってビルマに逃げ、50年ほど別れ離れになったコン父の妹の話で盛り上がっていた。


おいしいご飯をたべたあとは、お昼寝の時間。
僕はぶらぶらと散歩する。

日常はこうして平和に過ぎていった。

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