中国雲南、タイ、ラオス、ビルマの人、生活、そして音楽。 ひょうたん笛(葫芦絲)演奏者が綴る「おと」、「ことば」  
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失われた耳

これまで何度か山の民のひょうたん笛に触れた。山のひょうたん笛は音が小さく、ミツバチの飛ぶ音を優しく不規則にしたようなささやく音だ。

森の中で聴けば、自然の音、虫や木々のざわめき、風が吹く音などの隙間をぬって聴こえてくる。

耳を澄ますこと。

手に耳を当てて、澄ますこと。

聞取りにくい音を聴こうとすること。


IMG_1700.jpg

ここ数年はサウンドスケープという都市や自然に響く音を聴くことに注目が集まっている。
環境のありかたに新しい視点を取り入れたサウンドスケープは評価できる。

ただ、そろそろ批判的な立場に立ってもう一度考えてもいいと思う。
音と環境をデザインする、サウンドデザインは人間が音を操作しようとする傲慢さが如実にあらわれている。

僕は武満徹に同感する。
武満徹は、作曲とは人が普段ではききとれない自然の音や声を聴取して、観客に伝えるようにすることだといっていた。それは作曲家が音を操作するのではなく、人間がそのままでは認知できない音を、作曲家が持っている技術でわたしたちの耳に届けることだ。武満徹はオーケストレーションという技術で自然の声を曲に変換した。

僕はアジアでも田舎にすんでいたけど、残念ながら車の音、車の轟きが聴こえない土地にはあまり行ったことがない。
どんなに辺鄙な山にのぼっても、耳を澄ませば、遠くからエンジンの音が響いてくる。やすみない通低音となって空気を振動させ続けている。

だから人はエンジンの通低音に慣れすぎたか、聴かないふりをしている。

電気自動車の登場はとても興味深い。
エンジンの音がないから、歩行者は気づかないというのだ。
それは一つに、エンジンの音が大きかったために、タイヤが地面と摩擦するわずかな音を聴くことに注意が払えなかったことに問題があると思う。

友人が僕に行った、いつか、人間の未来はすばらしいものになるだろう。エンジン音のない未来だ。

そんな静寂な世界が訪れるまで僕は生きているだろうか。
きっと通低音がひとつ少なくなるだけで、僕らは失った耳を取り戻す。
通低音とその倍音にかき消されていた自然のささやく音を聴くこと。


人間は意識を集中させれば、小さな音も大きく聴こえてくる。
その小さな音が終わって、意識のスイッチが変わる直前、僕たちは周囲の雑音がとんでもなく大きな音に聴こえてびっくりする。
聴くことに神経を集中させていたから、耳は音に敏感になる。


人間が中心ではなく、
人間の耳が中心ではなく、
音の渦の中から世界をとらえようとすること、音の流れの名から音を捉えようとすること、
とても大切なことだと思う。
もっと抽象的に言えば、外の音だって耳を通してからだのなかに響いている。だから、身体の内側から音と同化すればいい。

ぼくは10年も前に一つの面白い体験をした。

井の頭公園で、友人たち数名とホーミー(ホーメイ)の練習をした。
原っぱにねっころがって、昼過ぎから夕暮れまで練習した。
声を出しながら、自分たちの声の倍音を聴こうと、意識を、耳を集中させた。
何時間も、あー、うー、いー、えー、おーとか発声しては、音の響きを確かめ続ける。

さてさて、日が暮れ始め、僕らは帰ることにした。
そのときだった、僕の耳はすべての音の重層的な倍音を聴いていた。

木々のせせらぎも、いくつもの倍音に聴こえる。
手元の草に眼をやった。草がかすむ音が、かすかに響いてくる。
友人の声に倍音が聴こえる。
鳥の鳴き声に倍音が聴こえる。

どうやら、この体験は個人差があるようで、他の友人はそうならなかったらしい。

車道に近づくと、車の通低音が何十にも層となった倍音に聴こえる。
車道の雑多な音に、僕の耳はやがて常態をとりもどしていった。


こうして文字にしてみると、なんてことはない主観的な文章になる。
つくづく、音楽や芸術は自分の身体で体験し、衝撃を受けることが必要なんだと思った。

でも、万人に開かれたのが芸術ではない。やっぱりそれなりに知識や経験を重ねてないと、その衝撃をスルーしてしまうかもしれない。騙されるかもしれない。
とくに前衛という名がつく芸術にたいしては。

それでも、とにかく主観的でもいい、芸術を体験して、ちょっとでも身体で衝撃をうけたら、
この日常はちょっとだけ世界の新しい側面が感じられるのではないか。新しい世界のありかたを考えることが出来るのではないか。

前衛と、古い消滅しかけている芸術はどこかで似ている。
両者は生まれる背景は違うけれど、僕らに直感させるものは同じだ。
そして、感化されたら、次に行動に移すのは紛れもない僕らだ。
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