中国雲南、タイ、ラオス、ビルマの人、生活、そして音楽。 ひょうたん笛(葫芦絲)演奏者が綴る「おと」、「ことば」  
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妖術のにおい ②


僕が住んでいた徳宏地域には、建国まもなく強制的に解散された村が二つあった。かつてその村は、ならず者やピープーが流浪の果てにたどり着く村だった。政府は、社会主義的平等の実現のため、ピープーを迷信として宣伝し、迫害を受けていた人びとを各村に分散させて住まわせることになった。僕が住んでいたD村にも、それらの村が解散された後に移住してきた家が2,3軒あったという。

村人たちはピープーなんて迷信だ、といって一笑するが、果たして本当に忘れさられてしまったのだろうか。災害が起こっても、問題解決は政府の介入や政治組織による合理的手段にとってかわられ、日常生活からはピープーに災因を求めることはなくなった、かのように見える。表面的な言説に立ち現れるのは、迷信という語だ。しかし、人びとと生活を共にしていると言説と矛盾した実践がかいまみれた。


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写真:2008年4月、ワン母と僕を含めた4人が日本に公演に行く前。
  ワン母の民間芸術団のメンバーのひとりは精霊を憑依させることがある。
  この日は、「7つの清水の精霊」(ワン母を守護する精霊だという)に供物をささげた。
  

「ピー」と呼ばれてるお化けや精霊という目に見えない超自然的な存在あるいは力は、その全てが「迷信」として忘れられたわけではない。村の守護霊には一年に一度、あるいは各家庭で結婚や葬式などの行事があれば捧げ物を持って詣でるし、家の守護霊とか祖霊の存在も大切にされている。また、病気になり、治療を受けても一向によくならかったり、立て続けに悪いことが起きたりすると、ピーが原因として疑われ、その原因を確定するために占い師に占ってもらう。占いでは、何もなければ運勢の問題として片付けられるが、多くの場合、ピーとの関係性が語られる。そして、その占いのなかにも、ピープーに妖術をかけられている、という語りが残されているのだ。よそ者と話をするような開かれた場での話題にはピープーはのぼってこないが、実は、人びとの噂や内輪話では今も根強くピープーが語られている。

ある日、僕はふとしたことからピープーの噂話を耳にした。

ひとつは、ある女性たちの仲よしグループ内の噂話だった。村のなかのタイ族の既婚女性たちは(男性もだが)、よく同世代の仲良しグループ(メーウーガン)をつくって生活や労働を扶助しあったり、息抜きしたりする。孫ができるくらいになると、お互い連れ立って寺院に通い、正式に戒律を守り始めて上座仏教の儀礼の中心的な参加者へと社会的役割を移して行く。あるおばさん、60歳くらいになるウィエンカムおばさんは、村のなかで同世代の8人で仲良しグループをつくっている。彼女の年代の女性たちは、家事もほとんど子どもたちに任せ、もっぱら仏教儀礼に参加して功徳を積んだり、グループのみんなでしょっちゅう外に遊びに行ったりする。

一時期、ウィエンカムおばさんの体調が悪かった。医者に見てもらったり、仏教的儀礼の「ガープアーサーク」(延命儀礼)を行ったりして回復を図っていた。ほかの仲良しの女性たちの話を聴いていると、ウィンカムおばさんはピープーに「噛まれている」のだという。最終的には、占い師に占ってもらった結果そのような結論が下されたという。それから、仲間内で誰がピープーか思案した。皆はピープーが仲間の女性の一人だと考えた。理由はなんでも、グループは何度かその女性を誘わずに外出して遊びに行くことがあり、その女性が仲間はずれを妬んで文句をいっていた情報が廻り回ってグループのメンバーの耳に入ったためだ。他の諸々の原因を話し合っているうちに、皆は妖術のにおいをかぎつけたのだった。それからは、ウィンカムおばさんは内心で嫌がっていても、仕方なくその女性を誘って外出するようにしている。そうすることが、恨みという呪いをかわないための防衛策なのだ。


つづく

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