中国雲南、タイ、ラオス、ビルマの人、生活、そして音楽。 ひょうたん笛(葫芦絲)演奏者が綴る「おと」、「ことば」  
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妖術のにおい ③


もうひとつの噂話は、僕が竹細工を習っていたイェサムじいさんの妻についてだった。イェサムじいさんは、とてもいい人なのだが、この奥さんはとても口数が多く、文句や不平をよくこぼす。

この女性の文句や不平は村でも評判で、僕がイェサムじいさんから竹細工を習っているときも、周りから「あの口うるさいばあさんと付き合うのは大変だろう」と言われたものだった。いつだったか、日本に一時帰国して立派なお土産を持って訪問した後日、他の村人から、そのおばあさんが「私はアーイバオ(僕のこと)から日本の『五円玉』を貰っていない」という不満を口にしていたことを知った。猜疑心も強いおばあさんは、たまに家の門の前に石灰で結界をはって悪いピーが入らないようにしたりする。ワン母は「今の時代は皆気にしなくなって入るが、ああいう女性がピープーだって皆が噂するんだよ」と僕に言った。


      IMG_2590.jpg
写真: 街中の一本の木。
あるとき、道路拡張のために伐採される直前、木の精霊(?)が住人に憑依し、呪いの脅しことばが語られたという。


  

どうやら、ピープーと周囲から噂される女性には、いくつかの傾向があるようだった。例えば「仲間はずれによる逆恨み」、「嫉妬心が強い」、「がめつい」、「服装や行いなどの品行が悪い」だ。

自分がピープーや妖術の被害を受けるか受けないかは、人間関係のあり方と関係しているようだ。他人の嫉妬は、共同体の中で平安に暮らすためにはなるべく避ける必要がある。もしも、誰かに嫉妬され、その嫉妬が膨らむと、たとえその嫉妬深い人が妖術を直接使わなくても、無意識に悪いピーに嫉妬心を利用されて呪いの力が発現してしまうという。大抵女性たちは集団で行動することが多いので、仲間はずれが引き起こす嫉妬には注意が必要らしい。だから近所づきあいや仲間づきあいは、表面的に親しそうに見えても、実際は相手におびえながら付き合っていたりする。

また、自分が仲間はずれにならないように、女性たちはコミュニティの流行や、行動の傾向には敏感だ。服装に始まり、その生地や、靴とか、色、家で使う家電、商売、そして家の立替、儀礼の供物、儀礼による名誉の獲得など、他人を真似することがとても大切だという。ワン母は、タイ族は「真似することを競い合う」といっていた。

そうした服装から行いなどすぐに目に付くような「見た目」を真似するのは、共同体から逸脱した存在と見なされないようにするためだ。逆に、負の側面を真似しないように細心の注意が払われているともいえる。汚らしい服装、文句、猜疑心、がめつさなどは、他人を見ていると気づく。こうした負の側面は、ピーに憑かれている兆候と考えられてしまう。


「科学の時代」の到来は、多くの精霊を追払った、と老人達は言っていた。昔は、何かにつけて儀礼を行い出費もかさんだんだ、という。確かに、村々がある盆地全体ではかつてもっとも大切で厳かだった盆地の地域の神を祀る儀礼はなくなってしまった。村でも守護廟を文化大革命で破壊されたままほったらかしにしているところもある。しかしながら、社会のなにやらじわじわと近寄ってくる不穏な動き、経済活動が原因で起こっているらしい共同体内部の不和、そこに病気や事故がかさなると、老人達は最終的に精霊のしわざだという判断を下さざるを得ない。そうでもしないと、共同体がばらばらになってしまう。何か手を打たなければ。

再びいくつかの共同で行う儀礼が復活した。科学の時代だが、精霊は完全にいなくなったわけではない。
科学には科学を、そして精霊には精霊への手段をもって対処しなければならない。
迷信として否定されたはずのピープーでさえ、人びとの意識の中に根強く残る。

いまもどこかに、あやしい妖術のにおいがする。


(「妖術のにおい」おわり)

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