中国雲南、タイ、ラオス、ビルマの人、生活、そして音楽。 ひょうたん笛(葫芦絲)演奏者が綴る「おと」、「ことば」  
間(あいだ)にあるもの ―ひょうたん笛と葫芦絲(フルス)の狭間で揺れる人びと ①


ひょうたん笛、中国語でいう「葫芦絲(フルス)」は、ここ数年にかけて中国全土で流行している「民族楽器」だ。中国全土200ヶ所を越した空港ではこの「フルス」がお土産として売られ、小中学生の音楽の授業や課外活動そして習い事でも大人気であり、CDやVCD、DVDがたくさん出版され、検定試験やコンテストも多く開かれている。
楽器屋やインターネットには、竹とひょうたんで作られた古い形態のものは見かけなくなりつつあり、変わって木製やプラスチックの楽器が増え、値段も400元から上は上限なく、1200元を越える値段の楽器もある。
そう、今では「フルス」は金のなる木なのだ。


中国には改革開放政策の一環として1979年から深圳、珠海、汕頭、廈門、海南省(1984年)が経済特区として外国企業の進出への門戸を開いた。これまでもいくつもの都市が試験的に経済発展の実験的な区域としてある。

徳宏州の瑞麗は、2011年より広西省東興、新疆カシュガル(喀什)、内蒙古マンシュリ(満洲里)とともに「国家重点開発開放試験区」として始動した。徳宏州はミャンマーを抜けてインドへと繋ぐ貿易・交通網の開発計画の中国側の窓口として、高速道路や線路の開発が始まっており、今後ますます徳宏州をめぐる環境は変化するだろう。

そんな社会のめまぐるしい展開をよそに、僕のタイ族の友人数名は、今日ものんびりと「フルス」を作っている。


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馮怀利 制作の「葫芦絲(フルス)」
もちろん、友人達が外の世界に興味がないわけではない。このご時勢では、何をするにしても金が必要だ。家を建て替えるため、結婚費用や子どもの養育費、親や親戚の医療費など、金はいくらあっても足りない。

「フルス」を毎日つくっていれば、大体1ヶ月で100本は売ることができるという。売る先は、徳宏州の外、雲南省の大中の都市、さらに遠くの沿海地域にまで及ぶ。彼らの制作の腕は「ある程度」買われている。

しかし、友人達は不満をつぶやく。注文を受けて売る1本の値段は100元くらい。大抵は個人の注文ではなく、「フルス」の教室を開いている先生や楽器店だという。そして、彼らはその楽器を生徒や客に倍以上の値段で売る。おそらくネットで見る限りだと、400元くらいで売っているだろう。楽器を作らずして、ただ仲介するだけで、作るよりも数倍の値段で売り、利益を上げる。

中国の経済事情は、いくら発展したといっても、まだ低所得者も多い。昆明の大学の先生でも月収2000元くらいだ。仮に沿海地域で月収3000元くらいもらっていても、収入と販売価格の割合を考えると、400元もする「フルス」は決して安い買い物ではない。

友人達は、確かに他の村人に比べて裕福だ。しかし、将来への不安もある。このまま楽器を作り続けていても、いつか注文が途絶えてしまうのではないかと。村人の平均収入は年間でも5千元(家畜をのぞく農業のみで)くらいだ。友人達は運がよければ一ヶ月で二年分の収入を得る。周りの村人からすれば羨ましい限りだろう。

ちなみに、村で朝一杯の米麺を食べたら2元。豚肉は500グラム12元くらい。そして結婚の際に支払われる婚資は2万元以上。近年では女性側もほぼ同額の花嫁道具という名の家具やバイク、電化製品を持っていく。

ローカルな村での経済的優位。しかし、よりマクロな視野で彼らの立場を眺めると、ある意味で搾取される構造的弱者に位置づけられてしまう。このギャップはなんだ?

搾取される、というのは、彼らの真正性が失われるという一面と関係している。
徳宏州梁河県は、「葫芦絲之郷」(フルスの里)として省政府より認定されている。彼らは伝統の継承者として「フルス」をつくる技と伝統知識と伝統曲と誇りがある。しかし、楽器がひとたび自分の手元を離れると、彼らが代々受け継いできた知恵と歴史の結晶である楽器は、お金に還元され、ただの消費される商品としての「フルス」として人の手に渡ってしまう。

タイ族社会を越えて、近代化した都市に住む人の手に渡った「フルス」は、タイ族の伝統や歴史、民族アイデンティティを表しはしない。それを手に取った人にとって、『質が良いか悪いか」、「試験を受けるため、コンテストで演奏するため、十分な表現力があるか」、「音楽の才能をのばすため」、「流行の楽器」、「中国の民族楽器」…といったイメージで使われるだろう。
そこに制作者の背負う歴史の重みや、羨望と嫉妬の苦悩、将来への不安は、微塵も感じ取ることなどできないだろう。

近代的な音楽の領域に存続の足場を移した「フルス」は、ただの楽器なのだ。

(つづく)



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