中国雲南、タイ、ラオス、ビルマの人、生活、そして音楽。 ひょうたん笛(葫芦絲)演奏者が綴る「おと」、「ことば」  
分散する「私」の魂

夏の日、ちょうどお盆の頃、久しぶりに公園の中を散歩してまわった。芝生が広がる公園の片隅の日陰に腰を下ろしてぼーっとしていた。
「わんわん・・・」子犬の鳴き声を聴いた気がして振り返った。
そこにいたのは黒いカラスだった。
僕は特に気にもかけず、また広場のほうを眺めていた。
「わんわん」
また奇妙な鳴き声だ。振り返るとやはりカラスがいる。まだ小さいから子どものからすだろうか。
僕がじーっとみつめると、「グワァ」とカラスらしい鳴き声をあげる。

また僕がそっぽを向くと、「グワァぐわぁ、わぁわぁ、わんわん・・・」と鳴く。
仲間とはぐれたのだろうか、僕はしばらくそこに座っていた。カラスは一定の距離をとって僕の周りを歩く。

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掛け合いうたを真剣に聴く子ども
* * *

僕はタイ族の村のシャマンのうたに思いをはせていた。
死者の魂を「集めて」、あの世に送り届けるうた。

村では葬式の数日後、儀礼を開いて死者の魂をあの世に送り届ける。
即興で歌われる儀礼うたは、実況中継のラジオのようであり、そして一人のナレーターが何役も登場人物をこなすラジオドラマのようだ。
うたでは、死者の魂を探し出し、家に連れ戻して家族のものと別れを惜しみ、あの世へと出発する。
長い長い道のりを、様々な試練を越えて行かなければならない。
旅路の途中では、先に死んだ友人や親戚にであうこともある。
・・・

シャマンの儀礼うたの始まりの部分では、まっさきにあの世に送り届ける死者の魂を探し出す。
死者の魂、つまり人間の魂はひとつではないという。

私という人としての存在は、複数の魂からなりたっているという。魂は具体的な身体の骨、肉、器官に宿る。さらに、感覚に魂が宿っていることで、もの・ことを感じる感性が生まれるのだという。


人の一生はどれだけ長いのだろうか。
昔なら、それほど人は遠くまで移動することはなく、ごく限られた範囲の中で移動し日常を送っていただろう。
都会に住む僕は、生きている間にいろんなところに行く。

人はいろんなことを経験する。感動や驚き、恐怖を経験する。
何度も病気をわずらうこともあるだろう。

生きている間にも、僕たちの魂の一部は遊離してさまよってしまうらしい。
「あっ」と驚けば、その瞬間に魂は抜け出ていってしまう。
美しいものに魅了されれば、そのまま魂は美しいものに惹かれ続ける。
「心残り」や「切ない思い出」「いつまでも忘れられない物事」…、そんなものに魂は引き抜かれて、そこにある。

儀礼においてシャマンは、まず死者の分散した魂を探しに行く。
家の各部屋、ベッドのなか、台所、家畜小屋、裏庭、田畑、知人の家、あぜ道、墓、そして旅先…。
抜け出た魂もある程度自我を持って仕事をしていたりするらしい。
死んだ後も、死を自覚せず、魂の一部は毎日の日課をもくもくと続けていたりする。家畜の世話のように。
シャマンはそんな働く魂も、迷子の魂も、呆然とする魂も、一つ残らず、生まれて死ぬまでに分散していった魂をすべて集め、再び一つの存在へ、「霊」として接合する。

そして、死者は自分が死んだことに改めて気付く。自分が死霊であることに気付いた後は、現実を受け入れられず、しばらく嘆きがはじまる。
突然、シャマンの身体に死霊が憑依する。

シャマンは身体を細かく揺らし、死者の嘆きを吐露するうたをうたう。
涙を流し、身体の痛みを訴え、家族への未練、親戚友人への未練、残された家族の今後を気遣い、そして自分がこれからどうなってしまうのか不安を哭きながら告白する。


* * *


僕は村人たちと会話していて、しょっちゅう感じることがあった。村の人たちは、僕にとってなんでもない、平凡な、同じ風景にしか見えない場所がとても大切で、その場所の特徴を鮮明に記憶している。

そこにいけば何があるか。そこで昔何が起こったか。そこに誰と来たか。その場所のことで誰が何に関して教えてくれたのか。

そんな話を聴くと、僕はどれだけ遠くへ来てしまったのか、どれだけ鈍感になったのか、どれだけ感じなくなっていしまったのかを知る。

彼らの魂はそんな身近な場所に惹かれる。
彼らの土地は、そんな村人たちの思い出と魂であふれている。

つづく
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