中国雲南、タイ、ラオス、ビルマの人、生活、そして音楽。 ひょうたん笛(葫芦絲)演奏者が綴る「おと」、「ことば」  
鼓動と息吹

明けましておめでとうございます。
新年最初のお話は、ひょうたん笛「葫芦絲(フルス)」についてです。


*  *  *  *  *  *  *


今年2度目の訪中、ひょうたん笛の職人である親友を訪ねた。
窓辺の机に、びっしりと笛の材料である竹やひょうたんが並ぶ。彼は黙々と小刀でリードを削っていた。
その姿に、何度目を疑ったことだろう。彼の笛作りの姿と雰囲気は、亡くなったエン先生そっくりだ。

僕が近づくと、ヒゲ面のくったくのない笑顔で話しかけてくる。
「太ったね! 座って、座って」
彼の第一声はいつも冗談から始まる。

作業を続ける友人のそばに座り、僕は彼がつくるひょうたん笛を手にした。
かつてエン先生の工房を訪れたときと同じように。

「楽器を味わうように、音色の出来を確かめる」といってしまうと、職人が緊張してしまうだろうか。

ゆっくりと、息を吹き込み、リードを振るわせ、音色をさがす・・・
息と、リードと、空気が溶け合うポイントがある。

彼がつくったひょうたん笛の音が、指先や肺、喉、舌、口、そして耳に伝わる。


僕の心は軽い衝撃を受ける。わかってはいた。いつか彼ならきっとできることを。

彼の笛はエン先生のつくる笛を越えようとしていた。
あるいは、
彼の笛はエン先生の音色を離れ、彼の几帳面な性格があらわれた、感性の繊細さと情熱がとけあった、彼独特の笛を産み出したのだ。

久しぶりに、笛を手にして胸が高鳴った。

  
  IMG_7302.jpg
エン先生の甥、哏姓のアーイ・ス


僕が訊ねて行ったその日の夕方、彼は知人の家でひょうたん笛の「古いしらべ」などの数曲を録音する予定だった。
ちょうど、彼は「古いしらべ」を改良されていない、昔ながらの作り方の古いタイプのひょうたん笛で演奏したいと思っていた。

それで、この日彼はずっと古いひょうたん笛を作ろうと竹に向かって格闘していた。
彼は老人たちから作り方は聞いていたが、現物は見たことも、触ったこともなかった。

不安そうに、僕にできた笛を渡す。
「違うね。副管と主管の音がばらばらだよ。古いタイプでも、副管とこの音は同じ音に調律しなきゃいけないんだよ」
僕はアドバイスする。

彼は不機嫌な顔をすることなく、とても喜んだ。
そして嬉々として再び笛を作り始めた。僕自身はずっと笛を作っていなし、彼のようにすばやく小刀を扱うことは出来ない。彼は手早く寸法やリードの位置を調整し、3回目にしてようやくある程度納得できる笛ができた。

「俺たちはタイ族なのに、日本人のお前ほど自分たちの伝統のことをよく知らないんだ。
 こんど村に帰ったら、老人たちに直接教えてもらうよ。
 また時間があるときに、今度は別の地域のひょうたん笛をつくろう。教えてくれよ。」

彼の心はまっすぐだ。エン先生とそっくりの顔に情熱がみなぎっている。

それを支える美人の奥さん。
そしてもくもくと仕事をこなす弟。

エン先生にはなかった信頼できるパートナーたちがいる。


彼の演奏する姿も、また、エン先生にそっくりだ。
ただ、彼の演奏は、エン先生よりも繊細で、柔らかい。もっと力強く、生き生きとしてもいいかな、と思う。
晩年のエン先生の音色は緩急が非常に豊かで力強く、生き生きとした演奏だった。

彼の優しく繊細な性格のおかげだろう、彼の作る笛はすでにエン先生にもおとらない。


en de quan
故エン・ダーチュエン(哏徳全)先生



エン先生は有名になったがために、晩年、販売する笛のほとんどを自分では作らなかった。
だから、僕にとって、量産された笛や先生が忙しい時に頼まれてなんとか作った笛は、副管と主管の音量のバランスが悪かったり、リードが固めに作られることが多々あって、不満だった。

アーイ・スとの対話のなかで、感覚的な音の調整について、彼はことばにならない感覚をうまく音に反映させてくれた。
僕自身の好きな音色の笛を、彼がつくってくれること、つくれることに、僕は感謝した。


アーイ・スのつくる笛は、エン先生の欠点をすでに乗り越え、音のバランスも絶妙にいい。
特に、僕ら演奏に熟達した者にとって、彼が上級者用に薄いリードでつくる笛はとてもいい音を奏でることができる。
繊細な息遣いをすればするほど、薄いリードの音は演奏者の感性にこたえてくれる。

彼もそれを知っているから、柔らかく演奏するのだろう。


「とにかく修行を続けるんだ。
 村の家も工房にしようと時間があるときに改修している。
 いつかは笛の生産は村で、俺は演奏に専念して、みんなにひょうたん笛を聞いてもらいたい。
 今は笛の音色の『韻味』と心を探しているところかな。…」


彼のまっすぐな意思と純粋さに、希望を感じる。
たとえそれが、挫折を繰り返したエン先生と同じように厳しい道のりであることを、僕らは知っていても、
彼なら着実に、たとえ有名にならなくても、最高のひょうたん笛とその音色を後世に継承することが出来るだろう。

新しい時代の息吹を、ここに感じた。



IMG_7392.jpg  IMG_7388 hulusi IMG_7394.jpg


C調のフルス(葫芦絲)
数本持ってきました。希望する方がいればご連絡ください。

コメント
新年おめでとうございます
あけましておめでとうございます(^-^)/

昨年はなかなかコメントできませんでしたが、いつも読ませていただいてました。
エン先生の甥ごさんご自身が笛をとても愛していらっしゃるのですね。年末にミャンマーに旅行した際、一人の操り人形遣いに出会いました。彼はその時、たった一人の客の私のために30分演じてくれたのですが、それは楽しそうで、人形劇が好きでたまらない思いが伝わってきました。
自分の担った伝統を愛せるのはすばらしく、羨ましいことです。いつか、その笛の音を聴きに行きたいと思います。
今年もよい演奏会をなさってください。楽しみにしています?
 
 
2012/01/01(日) 22:17 | URL | Manami #-[ 編集]
いいな、欲しいな。欲しいが、僕よりもっと別の人間に行くべきものな気もする。かつての僕らのように、ひたすら夢中になって吹ける若者の手に渡ることを祈るよ。
 
 
2012/01/04(水) 01:03 | URL | 亮介 #-[ 編集]
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