中国雲南、タイ、ラオス、ビルマの人、生活、そして音楽。 ひょうたん笛(葫芦絲)演奏者が綴る「おと」、「ことば」  
人の死をうたうこと

友人の親戚が亡くなった。

正直にいうと、僕はタイ族の葬式に出たことがなかったのでとても興味があった。
人の死を喜ぶわけではないのだが、人々の生活に一歩近づける気がして、友人たちと亡くなった親戚の家に行った。

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おばあさんが亡くなったその晩、村の人々や親戚がその家を訪れていた。
すでに近所のおばさん人達が家に集まり、家に来る客人のために晩御飯の準備をしていた。

不思議な空間だった。
家の正堂の真ん中に棺おけが置かれ、右手に親戚の女性たちがござに座って泣いていた。
親戚が挨拶に訪れるたびに、女性たちはタオルで眼をおおって涙を流しながら、哭き歌をうたっていた。
いや、正確に言えば、哭きがうたになってきこえる。

「おかあさん、おかあさん、どうして私たちを残して逝ってしまったの、あなたの優しさ、あなたのぬくもりが、いまもわすれられない・・・」

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これはうたではないのだ。嘆きの、いななきの、ことば。

もちろん、家によっては悲しみの雰囲気をつくりだすために、村の歌い手をよんで歌うこともある。
日本や韓国、中国、アジアやいろいろな国に共通する文化でもある。

正堂を一歩降りるとそこは中庭になっている。正堂と中庭の間には壁や敷居はない。
中庭にはテーブルがいくつも並べられ、親戚や村の男たちが食事をしている。
酒を飲み、笑い声や、酒を飲むゲームにうちこむ声が聞こえてくる。

棺おけの左手には板がしかれ親戚の男たちが眠るためのベッドが作られていた。
なくなったおばあさんの息子、おじさんが酒ものんだのか、タバコを一服すると、ごろんと身体をベッドに投げ出した。
おじさんはぼんやり天井を見つめていた。

村の人達の眼は綺麗だ。特に素朴で働き者の瞳はとても綺麗だ。
このおじさんの瞳も素朴で綺麗な眼をしている。
静かに天井を見つめるおじさん。
その隣で世間話をする別の親戚、中庭で酒を飲んではしゃぐ男たちの声がただの風景の音にしか聞こえない。

* * *

翌日、朝から亡くなったおばあさんを送り出す儀式が始まった。
仏教の知識がある老人たちが集まり、おばあさんの生前の人となりを謳いあげ、魂を天国に送るために経文を唱える。

魂が迷わないように、家のことを心配してもどってこないように、魂を送り出す。

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そして親戚の男たちがずっしりと重い棺を担ぎ出した。
ここから先、お墓がある丘までどんなに歩きづらい道であろうと、棺を地面に置くことは許されない。

爆竹がひっきりなしに家の外で鳴り響く。
女性たちは大声で哭きだした。
門の前で女性たちはしゃがみこみ、ひたすら哭きの歌をうたう。
重い棺を担ぐ親戚たちの顔も真剣だ。

悲しみが感染する、よく人は言う。
はっきりとすべての言葉がわからなくても、女性たちの哭き歌は僕の心にも響いてくる。
涙をぐっとこらえ、僕も男たちとともに歩きだした。

親戚たちは担がれた棺のしたをくぐり始める。
「人の橋」をつくって棺のなかのおばあさんを送り出す。

村をでて田畑までやってくると、女性たちはそこで再び立ち止まり、棺をみおくるのだった。
女性たちが遠くに見える。姿が小さくなっていっても、静かな田畑に哭き歌が響いていた。

すでに収穫を終えた田畑は雨季に比べて歩きやすい。それでも丘に差し掛かると急な斜面に棺を担ぐ男たちは悪戦苦闘した。

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これは母親が最後に残した試練だろうか。これまでの愛情の重みなのだろうか、そう思った。

お墓は、生前に老人が死期を悟ると自分で大体の位置を決める。老人が亡くなった日のうちか、その翌日、傘をかぶった長男が

長い刀を方に背負い、一個の生卵をもって老人が選んだ場所に行く。
もしも途中で村の老人に出会うと、老人が道をよぎるまで長男は跪いて老人が過ぎるまで待たなければならない。
おおまかに知らされていた場所までいくと、長男は後ろを向いて卵を後ろに向かって放り投げる。卵が割れた場所がお墓となる。ときに、岩にあたっても卵は割れないこともあるし、老人の魂がその場所が嫌いだと卵は割れることはないという。

棺がお墓の位置まで行くと、ようやく棺をおろし、再び魂を送る儀礼を行って、今度は棺おけを埋めるための穴を掘り始めた。

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ひたすら男たちがかわるがわる穴を掘る。
1時間、2時間、ようやく掘り終わると、親戚一人ひとりが最後の別れの儀礼を行う。
棺に飾られた装飾の一部を燃やしたり、おしりを棺にこすりつける。
別れの挨拶を一通り行った親戚は頭に赤い糸を結ぶ。自分の魂が一緒に持っていかれないように魂を身体に結びつけるためだ。

そしてようやく棺を埋め始めるのだが、最初の土は長男の背中から棺の上にかぶせるのだった。

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ふと気づくと、親戚の女性たちが数人鶏肉や豚肉や酒に水をもってやってきた。

土をかぶせ、正面に岩を埋め込み、お墓が出来上がった。

そのまま親戚の男たちは帰り、家族の男と女性だけがその場に残った。

家族の人達の顔には笑顔があった。
村の老人がおばあさんの魂に語りかけ、お供え物をささげる。

老人は、「いい酒も持ってきた。さあ、飲め。おっと、おまえさんは酒が飲めなかったな。それに死じまったら、酒なんて飲んでもしょうがないかー。どれ、もったいないからこの酒はおれがのんじまおう!」

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冗談をいいながら家族にも笑い声がでた。
そんな老人のおしりを家族の男が脚でこずく。
びっくりした老人が「おおっ、おばけのしわざかー」と笑い出す。
「ほれほれ、みんな鶏肉や豚肉がもったいないからたべてしまえ」と僕にもわけ、みんなでちょっとした宴会が始まった。
最後にゆで卵をたべ、「これで魂はおばけにもってかれない」というと、僕らはその場を立ち去った。

家に帰ると、
正堂ではふたたび簡単な経文が読み上げられた。

そして、すでに家では大勢の村人たちが集まり、酒を飲んで騒いでいる。香典を持ってくる村人たち。

再び日常生活がもどりはじめていた。


その数日後、村のシャーマンが亡くなったおばあさんの魂をよび、家族のものに言い残したことがないか確かめるのだった。



コメント
今昆明?
お久しぶりです。相変わらず面白い体験をしていますね。いつか一緒に中国に行って見たい。
今昆明ですか?実は知り合いが昆明に明日から行くことになり悟君に会いたがっています。詳しくはホットメールに送りましたので見て下さい。
 
 
2007/01/24(水) 00:32 | URL | 長田繁人 #-[ 編集]
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