中国雲南、タイ、ラオス、ビルマの人、生活、そして音楽。 ひょうたん笛(葫芦絲)演奏者が綴る「おと」、「ことば」  
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死者の魂がうたをうたう ――悲しみがおりてくる


先日、またシャーマンの魂を送り出す儀礼に参加した。

雨安居入りし、老人たちは戒律をまもって日常を暮らしている。日本であれば8月は猛暑だ。確かに村もお日様が照れば日差しが強く暑い。しかし、日本ほど湿気もなく比較的すごしやすい。何より、毎日のように朝晩、もしくは日中も雨が降る。朝晩の気温は急に低くなり、すごしやすい日々が続いていた。朝方の山々を眺めれば低い雲がかかり、とぎれとぎれの霧が山腹を覆っている。空や森や山の色彩のコントラストが鮮やかで美しい。

死者の魂を送り出す家は、僕の友人の家のすぐ近くだった。1週間ほど前に、ここの家の主が40代と若くして心臓病でなくなったのだった。奥さんもまだ若い。子供は3人。長女は地方都市の学校で勉強しているため、この日の儀礼には戻ってこなかった。農業を手伝っている二人の息子も高校生くらいの若さだ。70歳前後の母親もまだ元気でいた。
そして、遠くの村から90歳近いおばあちゃんも今駆けつけてくる途中だという。


RIMG2540.jpg

奥さんと母親は目を腫れ上がらせてシャーマンの右手に座っていた。

今回はある村の比較的若いおばさんがシャーマンである。ずんぐりした体型の普段はニコニコ顔のおばさんである。以前、悪霊を追い払う儀礼では冗談交じりで霊と会話して場の雰囲気を明るくしていたが、死者の魂を送るこの儀礼は重たい雰囲気の中で始まった。

村の女性や、他の村の親戚の女性たちもやってきていてにぎやかな昼間。あいかわらず、おばさんたちは、おしゃべりをしながら冗談を言っては笑っている。

数人、亡くなった主人の兄弟のおじさんが来ていた。
なんでも亡くなった主人は結婚当時から心臓に病を患っていたという。お兄さんの話では、この病気は治せる病気だった。薬だってある。手術なんて大それたことをしなくても、薬を買えれば、無理をしなければ、もっと長生きできたはずだ。
でも、子供の学費や、家の改築など、自分のことより家族の暮らしが大切だった。
発作を起こした日も、手術すれば治ったかもしれない。ただ農民にはその金がなかっただけだった。

シャーマンはいくつかのタブーを破り、そして口寄せの師に呼びかけ始める、「うた」が始まった。

しばらく歌が続くと、やがて軽いトランス状態から突然深い眠りへと落ちた。
周囲のおばさんたちのおしゃべりも静まり返る。

僕らはそれをじっと見守り続けた。

しばらくして、シャーマンが肩を震わせながら、ぼそぼそとつぶやき始めるのだった。
「つかれた…、つかれた…」
隣に座っていた母親は「もう無理しなくていいんだよ」と泣きながらつぶやいていた。
次第にシャーマンが大きく肩をゆすりながら、哭き始めた。
「お母さん、お母さん…」「つかれた…、つかれた…」

周りの女性たちも泣き始めては、口々に「もう休んでいいんだよ」「さぁ天国にいきなさい」と語りかける。

やがて、シャーマンはゆっくりと右手に持った扇子をなびかせ始め、「うた」を歌い始める。

僕は勘違いしていた。
シャーマンに降りてくるのは死者の魂そのものではなかった。

シャーマンに降りてくるのは死者の魂の「悲しみ」だったのだ。

人々は死者の魂の「悲しみ」のうたを聴きとどけるのだ。死者の悲しみはシャーマンの口を借りて「うた」として歌われる。みなに、家族のもの一人一人に心残りを伝えるのだ。
奥さんや母親に心優しいねぎらいの言葉もうたわれる。

死者の悲しみも、生者の悲しみも、この日にすべてなくしてしまうように。
死者はあの世へと旅立つ段階で、文字を学んだり、仏教の教えに再び気づいたり、古い友人にであったり、または新しい奥さんを見つけることもできるのだ。生者の魂を引きずって別の世界に持っていかないように…。

死者のうたが途切れれば、シャーマンは口寄せの師の霊にうたいかけ、死者の魂とコンタクトをはかる。そして、再び死者の悲しみが歌い始める。

しばらくして、別の村からおばあちゃんをつれた集団がたどり着いたようだった。真っ先に門をくぐって入ってきたのは90歳にもなる老女だった。白髪に、真っ白な皮膚の、腰を曲がらせて杖をついて歩いている。それでも高齢とは思えないスピードで居間にやってきてシャーマンのうたに耳を傾けるのだった。
悲しむしわくちゃ顔のおばあちゃん、枯れた瞳からは涙はなかなか流れないようだった。


 ⇒⇒死者の魂がうたをうたう 1

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