中国雲南、タイ、ラオス、ビルマの人、生活、そして音楽。 ひょうたん笛(葫芦絲)演奏者が綴る「おと」、「ことば」  
この夏は2年半の雲南生活を振り返りつつ日記や資料の整理をしている。向こうにいるときからこまめに整理していればよかったのだが、これがなかなか大変で時間がかかる。この先、このノートを整理するのにいったいどれだけ時間がかかるのだろうかと、先の見えない泥沼にはまっていくような、そんな毎日を過ごしている。

それが苦痛かと自分に問いかければ、もちろん大変だけど、嫌ではない、そう思う自分がいる。ノートの文字と写真やビデオを見比べたりしていると、たちまちあの頃の時間がよみがえってきて、僕の胸の鼓動はちょっと早くなる。全身に熱い血が流れてからだが熱っぽくなる。
そして、心の中は懐かしさと切なさで複雑な感情でいっぱいになる。

2年半まえのある一日の出来事。
ノートには書いていなかった出来事を一枚の写真から思い出した。


RIMG0810.jpg

くらくて分かりにくいですが。
あるおじいさんの誕生日の写真。
息子に娘、孫、親戚、友人たちがみんな集まり、わざわざ山を隔てた遠くの町から買って来たケーキを囲んでみんなが笑顔でいる。
このときはもう食事が終わった頃で、男たちはほろ酔い気分。
子供たちはケーキを早く食べたそう。
おじいさんは上機嫌な笑顔。

そう、男たちは酔っ払ってみんなで誕生日の歌をうたったんだっけ。

この日はちょうど雨安居が開けた日で、朝から寺でお経を唱え、夕方からこの老人の家に行って食事をしたのだった。

このおじいさんは僕の友人の父親。
どこにでもいるタイ族の農民。
陽気なおじさんは酒が好きで、この数年は酒を飲みすぎてずいぶんやつれてしまった。首のうしろに腫瘍ができる病気にかかり、僕が帰国する直前にはもうだいぶ大きくなっていた。手術するとは聞いていたのだが、最後のお別れの挨拶をしに行ったときには、手術をしてもお金がかかるし、老体には負担が大きすぎるから、このままでいい、といっていた。

「もうこれまで十分生きたし、まぁいいか」
そう笑顔でいう。

去年は息子や娘がこのおじいさんと奥さんに棺をプレゼントした。
棺をプレゼントする、なんていうと、少々不吉な感じがするけど、タイ族の村や漢族の田舎ではひとつの親孝行の慣わし。
もちろん、「きにくわなかったら後日棺を薪にしてしまってもいい。」
「子供たちが用意してくれた次の家さ。まだ引越しには時間かかるけどね。」
子供たちが準備してくれた二つの棺を家においておき、のこりの人生を過ごす。
死は常に身近にある。
小さな地域だから、ちょっと離れた村などでしょっちゅう知人の葬式がある。だれが死んだとか、魂を送る儀礼はどうするだとか、そんな話題は日常の井戸端会議でも当たり前なのだ。


このおじいさんはひょうたん笛が好きだった。
10年前、僕が熱心にとっくの昔に村で失われてしまった古い調べを探して演奏するのを目にして、「自分も昔の頃を思い出して演奏してみようという気になった!」そう言った。
おじいさんはなんとか古い歌詞を思い出し、忘れた部分はほかの老人に聞いてまわった。かつては少年たちにしか許されなかった楽器の演奏も、今となっては年老いた老人には誰もやめろなんて文句は言わない。「昔はおれもぶいぶいいわせてたんだぜ」、みたいなノリで武勇談を僕に語ってくれた。

指がおもうように動かないし、息もうまくコントロールできなくて、昔のようには演奏できない。
それでも古い歌詞を口ずさみながら、ここはこうやって演奏するんだ、と嬉しそうに語ってくれる。

おばあちゃんは? 「おじいさん、笛が上手ですね」、僕がそう尋ねると、おばあちゃんは「老人だから好きにすればいい」というのだが、まんざらでもなさそう。

ふたりは笛の音で結ばれたんだし。

今では歌われなくなった古い調べ。それでも老人たちの心には今も生きている。
みんな一番聞きたいのは古い調べ。
恋愛の歌だから、普段はみんな遠慮して歌わないのだけど、僕がフレーズを口ずさんだり、笛で演奏したり、老人が演奏したものをVCDにしてプレゼントすると、飽きもせず嬉しそうに耳を傾けてくれる。

古い調べの音の響きと、婉曲に言葉で表現される自然の美しさ、人間の感情、それがきっとこの人たちを掴んで放さない理由なのだと思う。
僕の心も、このひとたちの荒々しい動作、屈託のない笑顔、素直な感情にとりこにされて、今も写真を見るだけで胸が熱くなる。

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