中国雲南、タイ、ラオス、ビルマの人、生活、そして音楽。 ひょうたん笛(葫芦絲)演奏者が綴る「おと」、「ことば」  
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雲南の映像事情 

(2010『月刊みんぱく』2月号より)

 二〇〇八年五月、民博で開催された特別展「深奥的中国」の関連イベントのひとつとして、中国雲南省の少数民族の歌と踊りを紹介する研究公演「タイ族こころの調べ」がおこなわれた。徳宏州タイ族の民間芸能者三名が現地から飛行機を乗り継いで来日し、大阪や京都でも公演をおこなった。わたしは現地からずっと三人の民間芸能者に同行し、彼らが日本の社会と文化に一喜一憂する姿を見た。歌の名手のタイ族のおかあさんとおじさんは、行く先々その場で感想を即興歌に表現して歌い、わたしはその姿をビデオに収めた。徳宏州に帰り、わたしもまた住み込み調査を再開したが、空いた時間を利用して撮影した映像記録を日本渡航記念としてDVDとVCDメディアに編集し、三人の親戚や友人にプレゼントしたのだった――。

 中国は、いま急速な経済成長を遂げ、社会や文化も急激な変化のなかにある。一方で、CDやDVDの不正コピーなど著作権侵害は、海外企業に膨大な損害を被っている。現在も一向に不正はなくならないが、村や街の人びとは、その「恩恵」を受けた生活を送っている。
 

「無名の英雄」

わたしが初めて雲南省昆明市に留学した一九九八年二月頃、既に巷では世界各地の映画の不正コピーVCDが氾濫していた。もっとも、正価品があまりにも少ないため、本物が偽物と間違われるという皮肉まであった。海賊版は安価なうえに日本では珍しい新旧さまざまな映画も手に入るので、お金のない若者たちに歓迎された。驚いたことに、どの国の映画であれ海賊版メディアには必ず中国語字幕が入っているのだ。友人はそうした海賊版のために翻訳をおこなう者たちを「無名の英雄」とよんだ。

 海賊版映画で育った若い世代のなかには、世界各地のドキュメンタリー映画に興味をもつ者たちも多かった。ここ雲南省は中国五六民族のうち二五の少数民族が住む地域である。そのため、建国以来さまざまな少数民族記録映画が作られてきた。雲南における人類学や民族学研究が隆盛に向かうなか、雲南大学の一部に一九九九年から二〇〇四年まで東アジア映像人類学研究所(East Asia Institute of Visual Anthropology)が開設された。そこではヨーロッパから招聘した専任講師から十数名の学生が映像人類学の基礎から実践までを学んだ。二〇〇三年三月からは隔年で、若者たちが中心になって全国規模の雲之南記録映像展が開催されるようになった。映像展のスタッフやNGOは、近年安価となったビデオカメラとパソコンを購入し、遠隔地の農村住民らに貸与して自らの手で自文化の記録映像を撮影・制作してもらうという、文化復興や開発、環境保護を実践する活動もおこなっている。
 

コピーされる娯楽の自主制作ビデオ

 ビデオ撮影はなにも都市部だけの特権ではない。少数民族はこれまで奇異な文化を持つ人びととして常にテレビや研究者から記録される側であった。近年では、自分たちの手で自文化を表象するようになってきた。民族によっては、今も中年の男女ならば即興で歌を掛け合う文化を保持している。残念ならが若者たちにはその技術が伝承されていないようだが、消えかかっていた即興歌の文化は、ビデオカメラの登場によって新しい娯楽として生まれ変わりつつある。例えば、農村では大金をつぎ込んで開催される結婚式や伝統的祝祭などに、名の知れた歌手たちを招いて一席歌ってもらう。場合によっては村人たちも参加した掛け歌大会に早変わりする。主催者はそんな賑やかなハレの日を記念として映像作品に残す。注目すべきは、そうした自主制作ビデオは個人で所有されるのではなく、海賊版としてコピーされ、一般に向けて(勝手に)安く売られることだ。

 日本にお招きした徳宏タイ族の三人と同じく、タイ族のアイデンティティを持つ人びとは中国のみならず、ビルマやタイ北部にまで広がっている。中国領内の自主制作ビデオはコピーを繰り返され、その海賊版は国境を越え、ビルマや遠く離れたタイ北部で販売される。そうしたコピーメディアは、国家に対する抵抗や、故郷を離れて暮らすディアスポラの人びとのアイデンティティのよりどころにもなる。

 ところで、わたしが編集した記念映像作品だが、三人の民間芸能者が有名だったため、もちろん、すぐさま海賊版として州内全土で売られ始めた。わたし自身はちょっとしか登場していないのだが、ときどきすれ違うおばさんたちに呼び止められ、その記念映像の内容について聞かれることもしばしばあった。
コメント
 もともと民間の芸能には著作権はありませんものね。
 機器の進化で安価に映像文化が手に入るようになったことで、口伝えだった文化が違う伝承の方法を得た…ということなのかもしれませんね。
 で、私もその海賊版、見たらきっと買ってしまうでしょうv-10
 
 
2010/01/31(日) 15:27 | URL | manami #BXnGd9FU[ 編集]
モノってどこでどう動いているのかわかりませんね。もしかしたら、へんなところに流通してくるかもしれません・・・
 
 
2010/02/01(月) 15:35 | URL | #-[ 編集]
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